2021年11月16日火曜日

甘い蜜の部屋 +森茉莉

 中学生の頃、絵の参考にするためゴシックロリータバイブルを買い、読みふけっていたのが懐かしい…。

 もっぱら、その頃雑誌の華やかなカラーページしか読まなかったので、コラムなぞというものは触れもしなかった。
 が、月日が経ち、なんとなしにふとそのコラムを目にすることがあった。そのコラムは、夢みるロリータ少女のバイブルとなりそうな小説の紹介だった。そこに名がのっていたのが‘甘い蜜の部屋’である。
 
 そのあらすじは
 「美少女モイラと父親との愛の蜜を貯えた部屋。モイラが成長するにつれその美しさはより一層増し、出会う男たちを惑わしていく…」
 という内容だった気がする。
 いやあ、食いついたね。当時の自分。美少女、父、愛の甘い蜜、に惹かれてしまったのだ。ははは。

 年頃の自分を食らいつかせるには、十分すぎる言葉綴り。
 そして、なんとかためし読みできないかと高校の図書館で駄目もとで探す。

 そしたら、探せばあるもんだね。そう、自分の通っていた高校はマンモス校なのだった。図書館もデカイ。しかも、目当ての本は、全集の一冊で表紙は美しくと重厚ある本だった。手にしたときのかっこよさ。
 そう、森鴎外の娘、森茉莉さんとのはじめての出会いだった。

 一時間半かけて通学しなければならないなか、めちゃくちゃ重たい鞄にその全集も御伴に。でもその重さが苦にならないほどの可憐な本だった。
 最初は、なんとも言葉にしてよいかわからずただ、言葉の抜粋だけで物語を咀嚼した。それだけ森さんの文章が個性的なのだ。たどたどしく、彼女がおもい描き見たままの風景が文章になってる。ただ、文章中に流れている空気はきれいだった。
 このあとで、あとがきとかエッセイも読みあさったけれど、彼女はすっごくこだわりをもって生きた人で、それはまさしくアートだった。本物の贅沢を知る数少ない人物かもしれない。父との愛、彼女のナルシシズムあってこそ、男性では描けない真の美少女が、誕生したのだとおもう。
 それが主人公モイラ。この美少女モイラは、特に幼少期の森さん自身の思い出が題材なのだ。いわば、森さんの化身。彼女の、美しさ至上主義の性格がモイラという夢を作り上げた。その贅沢な生活や人間模様、少女の見る幻想の細やかな描写といったらもう……。なんといってもこれを書き上げるのに8年以上かけたらしい(そもそも文章を書くのはのろまだったし、面倒くさがりだったそうだ)。

 彼女には生涯、夢みつづけられる才能があったのだ。
 学生時代、美少女やわがままな世界を描くのに、どれだけ役にたっただろうかわからない。それだけ、当時の自分は、彼女の世界に溺れたいとおもったのだ。
 
 そう、この本はいわば自分にとってバイブルである。



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