2021年3月7日日曜日

白い添人

 あの子はちょっと特別な存在。色のしろいあの子、まったく栄養素がないらしい。健康的効果もなし。チョコレートなのに茶の艶やかさをだすカカオははいっていない。あの子の素材はココアバター、砂糖、ミルクでできている。カカオマスの苦味がない濃厚な乳のあまさが舌に絡み付くのだ。そう、あの子はただあまく、とろかすだけなのだ。
 あかぐまは、あの子をすばらしいカカオ成分がはいってないからといって軽んじてはいないが、幼少のころはそんなにあの子を単体で食べなかった。あの子、よりあの艶っぽいチョコレート色と味が好きだったのだ。そう、歳を重ねてふたたびあの子と出会ったのだ。
 もう、お馴染みだがその素晴らしさに気がつかせてくれたのはlindtさんのエクセレンスシリーズ(板チョコレート)のあの子だ。ミルクチョコレートの乳とは違った味わいのクリーミーさ。そのミルクがあまさと混ざりあい、そこに重なるマダガスカルヴァニラの風味。ただの砂糖のあまさではないのだ。そして、驚いたことに、後味がとてもさっぱりしているのだ。すーっときえてのこらない。なんと引き際を心得ているのだろう…。感動、の一色だった。そこから、あの子に注意を払うようになった。
 あかぐまはふと、思う。あの子は、チョコレート色しているものよりも口溶けが肝心。健康の糧にはならないが、脳に心地いいものと安らぎをあたえ、それに嵌まる人があるのではと感じる。職場にあの子が好きな人がいたのだが、なんとなく最初はそれが新鮮で、おもしろく感じた。しかしながら、あかぐまはあの子の素晴らしさに出会い、あの子のを好きな事で、職場のその人が素敵にみえた。あかぐまの単純極まりないことは重々承知だが、あの子のなんとも言えないよさがわかるその人の評価をあげたのだ。
 最近、あかぐまはかなり珍しく高熱をだした。測らなくても分かる熱い体温が、身体のあちこちに痛みをはしらせる。風邪の嫌なところは味が分からなくなるところだ。大好きな味も味気ないものにしてしまう。だからその前、熱があがりきる前に好きな味を口にのこしておきたい。欲が手を伸ばさせた。選んだのはあの子。あのココアバターとミルクのあまさがあかぐまの鈍った舌をつつみこんだ。しあわせだ。あの子は、チョコレート健康ブームの外にいる。あまりその界隈では目立たない。でも、その時のあかぐまにとって貴重な、やさしい栄養だった。




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